ショートショート「大学生と河川敷」

毎日石を投げている。

 
人間の頭ほどもある物から、赤子の握り拳くらいの物まで大小様々な石が河原には有る。
それらを川に架かる陸橋の下、コンクリートで出来た巨大な支柱に向かって繰り返し投げている。
支柱の存在は川の流れを分断し、河原と支柱の間には2メートル程の速い流れがある。
その流れを見つめながら、千葉ガッツドールズの豪速球投手がオーバースローで球を放る様なフォームで私は石を投げ続けている。

大学には行かなくなった。
家にも居場所がない。
会える人間関係も、もはや無いに等しい。
だから通学を装い家を出ては駅への道と逆の方向を行き、毎日ここでこうしている。

これを始めてから現在に至るまで季節が2度廻った。
時間をかけて支柱の根元は大小の石で山積みになり、川の流れはどんどん浅く鋭くなっていった。
 
1周目の冬には流れを泳ぐ鯉、箆鮒の横腹が鮮明に見える様になった。
そして2度目の夏の今。
河原と支柱の間を流れていた水流は、投擲された石によって完全に堰き止められている。

そして同時に私も「完成」していた。
 
四季を2巡して石を投げた結果、私の両腕の筋肉は研ぎ澄まされ、針も通さない程に発達した。
シャツの上からその躍動を指でなぞり、私は静かに笑う。

支柱までの不揃いな石畳の上を歩き、掘削された岩盤の様に円錐形に削られた支柱の表面に頰を当て、その凹凸をひとしきり指と舌で確認し、私はその場所を原を後にした。
 
まずは何から始めようかー
 
口に出した自分への問いが河川敷に響き、発生した音波が支柱を揺らし、陸橋がたわんだ様な気がした。
季節は夏で私は若く、力に満ち、自分をコントロールする術を持たなかった。