ショートショート「与太と順々餃子」

一番じゃなきゃダメなんですか?

ホワイト餃子ではダメなんですか?

 

第一野党の論客の様なショートカットで白スーツという出で立ちのウーマンリブ女が学食でこんな事を言っていた。

その瞬間に僕の内なる火薬樽が燃え上がり、その内的宇宙(コスモ)の爆発は僕の右手をカシャン、カシャン、肉と骨で構成されたコルト社製M1911に変化させた。

 

バン!

バン!

バンバン!

 

銃口を構え、頭の中で唱える。

瞬きの合間にウーマンリブ女の頭は吹き飛び、チリコンカルネの具材の様な赤い肉片が、彼女の向かいに座っていたテンガロンハット女の顔を赤く染めた。

 

学食の隅々までカウボーイ女の倍音成分を多分に含む超高音の悲鳴が響き渡った。

 

勿論2番でいい訳がない。

順々餃子じゃなきゃダメだ。

 

大学を後にした僕はコマ送り編集されたアクション映画の主人公の速度で大宮駅のすずらん通りに向かい、順々餃子を閉店間際まで食す。

 

ホワイト餃子で良い筈がない。

順々餃子じゃなきゃダメだ。

 

真理を再確認し、店を出た僕は駅へとコマ送りで移動する。

 

ふとコマ送りが止まり、後ろから手を引っ張られた。

餃子の満州オリジナルTシャツを着た肉体労働者風の与太が2人、僕を見てニヤついていた。

 

僕から見て右側の与太が言う。

「兄さん、今どこから出てきた?」

 

左側の与太が言う。

「見たぜ、兄さんが今どこから出てきたのかを」

 

左側から鋭い三日月蹴りが飛んできて、僕の肝臓を抉る。

激痛で膝をつくと、右側から顎を掴まれ上を向かされる。

 

「兄さんにはけじめをつけてもらわなきゃな」

 

与太2人が同時に満州Tシャツを破り捨てると彼らの腹部にはコルセットのような器具が巻き付けられていた。

コルセットの中央に配置された例の中国娘風マスコットキャラの口の部分から鉄の蛇が伸び、2匹ともが僕の口の中へと潜り込もうとする。

 

その瞬間僕の内なる火薬樽が爆発し、僕の両手はIMI社製の短機関銃に変化し、与太2人はバラバラバラ、コルセットのギミックと共に四散した。

 

身体中に与太2人分のチリコンカルネを浴びながら、僕は近づいてくるサイレンの音を呆然と聴いていたー

 

あれから20年。

刑期を終えた僕は大宮山東光寺にある小さな2つの墓のお参りに来ている。

2つとも無縁仏で墓は荒れ放題だった。

墓の手入れを終え、手を合わせながら僕は言う。

 

「結局代理抗争でしかなかったんだ」

「シェアを奪い合う寡占業界の肥え太った怪物が3匹」

僕は順々。

彼女はホワイト。

君達は満州

 

「今ではよく満州に行くんだ」

「餃子だけでなくラーメンもさ、冷凍の麺でコシがないけど丸麺がモチモチしていてすぐに出てくるのが好きだよ」

「君達と一緒に食べたかった」

 

僕は墓前に順々餃子から持ち帰った焼き餃子を供える。

その瞬間後頭部に銃が押し付けられる。

 

与太達の墓を見つめ、僕は言う。

 

「どうぞ、冷めないうちにやってくれ」

 

押し付けられた銃の撃鉄が撃針を叩き、雷管が爆発する音が聞こえ、それが僕の最期となった。

 

土の上に転がった僕の右目に拍車付きのカウボーイブーツが映る。

 

(そうか、君か)

 

上を向いた左目に、涙を流しながらこちらを睨むテンガロンハットの女が映る。

 

(内なる火薬樽の誘爆はどうやら続く様だな)

 

(幸運を祈るー)

 

女のブーツが僕の左目を、次いで右目を踏み潰し、世界は闇に包まれた。

 

(・・・・)