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南関東の土地に越して2年近くになる。
縁もゆかりもない土地だ。
いつか腰を上げる椅子。
渡り鳥の止まり木。
寝台車の2段ベッド。
使い捨ての車窓。
ある人は言うかもしれない
気に入ったら住めばいいよ。
どこも同じ、思い出を育めばね・・・
不正解だ。
年を食ったトムソーヤーはハックルベリーの誘いに変わらず応じたりしない。
街に対して心を開く、というのはとても難しい事だ。
人間が自分の翼で空を飛ぶのと同じくらいには。
生まれ故郷は毎週行って散歩する程好きだろ、って?
イエス。
だけどそれは単に、孵化した雛が初めて母鳥を直視したからに他ならない。
新しい街が故郷に似た要素を持つ事もあった。
だけど0は0だ。
私はかつてこの場所を歩かなかった。
地域の公民館で季節行事に参加しなかった。
公園で小競り合いをしなかった。
自転車で坂道を登らなかった。
知らない街を越した後にまた同じ街に越してくれば・・・とも思った。
だがやはり0は0だ。
生まれ故郷はどこにでもある一地方都市だ。
他の多くの街と何も違わない。
それでも特別だ。
建て壊される前のショッピングモール。
今はデザイナーズマンションが建っている元団地だった場所。
廃墟と化したパン屋。
歩けば歩く程に幽霊と出会う。
私の街。